そのふたりがどこからきたのかは、だれもしらないのです。
「嶺落ち星とバドルゴン −満月の夜−」
それは満月の夜でした。
満ち足りた月は白く大きく夜空に鎮座しています。
白々と光が照らす元、夜道を走る四本足と、四足の上にしがみつく小さな二本足がいました。
四足は長い金属の毛と、石の体を持つ狼で。
二本足は月の黄金色の髪を編んだ、人の手に乗る程の小さな少年で。
滑るように夜道を馳せる狼の上に、少年は強くしがみついています。時たま少年は、狼が大地を蹴る動きに乗じて、狼の毛束を両手に掴んだままに跳ね上がったりなどもします。
影が出来る程大きな月の夜のことです。石鉄の狼は夜の中でも冷たく輝き、地上を駆ける姿は星の眷属のようでもありました。
「おい、道はこっちでいいのか」
低く唸るような声に、小さな少年はちぃちぃと鳴いて答えます。ひょっとしたら彼は人の言葉を操っているのかもしれませんが、彼のかたちは小さすぎて、我々の耳には小鳥や小動物の鳴き声のようにしか聞こえません。
ですが、石鉄の狼には違うようです。狼には、少年の言葉がわかるようで、うむ、と一つ唸って、
「わかった。少し速度を上げるぞ、落ちるなよ」
言うなり、狼は風のようになりました。夜の中をキラキラと、少年を乗せた石と鉄の獣が駆けてゆきます。
少年の黄金と狼の銀、二つの輝きが行くさまは、地上を走る流れ星のようでありました。
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初出: 2011/12/12
http://www.twitlonger.com/show/emdes9