山道の守護者
-ある星の行く末の一つの小枝-


 私はある深山の村に友を尋ねた。
 友からの知らせはなかったが、彼と思われる話を風の噂に耳に挟んだのがきっかけである。
 あの時代を覚えている者はもう少なかった。冒険の日々は過ぎ去り、酒を酌み交わした仲間たちはそれぞれの地に去った。私自身もそうして世間から一度は引っ込んだのだが、時に胸に覚える懐旧は押し隠しがたかった。そうして私は、人の世に混じり、このように、隠遁した仲間たちの消息を辿ってみたりなどする。

 その山村は、いくつかの家々が寄り添ったようだった。畑は山肌に張り付くようで、その畑の狭さから、村の住人の数が知れた。
 私はある薬草取りの家を尋ねた。その薬草取りの血筋はこの村で最も古い家の一つで、その血にまつわる密かな話が、私の目当てとするものだった。

 薬草取りの家は村はずれにあった。
 山に入る道の近くに小さな家屋があり、その道端でひざまずいて何かを供えている娘が見えたので、私はおうい、と声をかけた。彼女は少しばかり辺りを見回してから私に気づき、立ち上がった。近づいてみれば、まだ年若い小女で、彼女の瞳をみれば、来訪者を面白げに歓迎しているのが分かった。私は、と名乗る前に、彼女は口を開き、
「貴方が街から来たという方ね。ええ、見ての通りの狭い村です、変わったことはすぐに知れます」
 成る程、と頷いて、先程まで彼女が触っていたものをみた。それは古くなった獣の骨のようだった。麻ひもでくくり、何かしら意味のあるような形に仕上げられている。
 私の視線を見て取った娘が、街暮らしの方には、奇妙なまじないと映るでしょうけれど、と苦笑した。
「それは山の精に捧げるものですよ。ひと月に一度、この先にある祭壇に獣骨の護符を置くんです。私の家が、代々この祭壇の守りを預かっているので」
 彼女が示す先、山道の入りばなに、石を素朴に組んだ祭壇があった。骨飾りはそこに納められるものらしかった。
 山の精、と繰り返す。ええ、獣の姿をしているとか、と彼女が応じる。
 その話から立ち入って、山にまつわる興味深い話をいくつか聞いた。最後の段になって、私は彼女に一つ尋ねた。
「山に入るのが恐ろしくないかって」
 娘は肩をすくめた。貴方は今まで何を聞いてきたのかという顔だった。
「恐ろしくないわけがないでしょう。でも、この村じゃそうしなくては生きてはいけないし。
 それに、私なら大丈夫なんです。藪の向う、木々の暗がり、そこにいる何かがいつも道を送ってくれるので。
……いいえ、彼が何なのかは知りません。ただ、そうあるものなのだと」



<END>


初出: 2011/11/05 http://www.twitlonger.com/show/e1366v




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